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麻雀の誕生

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 麻雀を覚えたのは社会人になって数年経ってからでした。
 複雑なルール、ツキの有無にも左右される勝敗、あがれた時のよろこびや振り込んだ時のくやしさは他では味わえないほど刺激的で、ご多分にもれず、すっかり虜になった訳ですが、と同時に、これほど入り組んだゲームをよくぞ考案し、しかもそれがここまで浸透したものだ、と感心するのでした。
 どうやら日本と中国ではルールが大きく異なるらしい、ということを知るに及んで、麻雀の文化的側面にも興味を抱いた私は、それを一冊にまとめることはできないか、と考えるようになりました。
 半ば興味本位で起こした企画に思いがけずゴーサインが出て、そこでお声がけさせていただいたのが、北海学園大学で中国の伝統遊技を研究されている大谷通順先生でした。先生にはそれまでにも小社の『日中文化交流史叢書』や雑誌に麻雀についての論考をお寄せいただいており、ご相談すると、ご自身も中国の博戯についていずれ一般向けにわかりやすくまとめなくてはならないとお考えだったとのことで、本書はその誕生に向けた第一歩を踏み出したのでした。
 麻雀の成り立ちについては、はじめは中国の宮中の女官がつくったなどという俗説を面白がっていたくらいで、その後、少し調べてみたところではどうやら陳魚門という人を創始者とするのが定説らしいというレベルの知識を持つのみでした。それが、先生からいただく御原稿を読み進めるにつれ、その歴史はせいぜい100年ほどであるにも関わらず(実は、だからこそ、ともいえるのですが)、生い立ちについては謎に包まれていることを知るのでした。中国・アメリカ・日本の数多の文献や資料をもとに麻雀のルーツを探っていくのですが、そこには人間のさまざまな思惑が絡んでおり、情報は操作され、すなおに起源を辿ることを許しません。そうした膨大な量の資料が本書ではていねいに解析され、名称・器具・ルールなど、あらゆる角度から麻雀誕生の瞬間に迫っていきます。
 どっしりとした読み応えのある本書ですが、さまざまなデザインの牌や麻雀を扱った絵画の図版などを眺めるのも楽しみ方のひとつです。また、アメリカには麻雀をモチーフにしたミュージカルがあった(主人公「マー・ジョン」が神殿に閉じ込められた絶世の美女「四種の花の姫」を救い出すという冒険活劇!)、なぜ索子(ソーズ)の「1」は鳥なのか、といった、知れば思わず人に話したくなるような小ネタも満載です。麻雀がお好きな向きには、プレー場面を描いた小説を取り上げた章は特に興味をもって読んでいただけるでしょうし、できないけれど興味はあるという向きには、本書を読むところからゲーム・システムに止まらない麻雀の魅力にふれていただくというのも一興でしょう。
 実は本書では、麻雀の起源と、現代における成り立ちという、二つの「誕生」を扱う予定でした。しかし、残念ながら、紙幅の都合上、麻雀がどのように伝播していき現在の姿になったかまでは収めることができませんでした。当然そこには未練がある訳で、もし許されるなら第2弾としてまとめたいと、虎視眈々と「連チャン」を狙う次第です。(向井みちよ)

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