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日本漢方典籍辞典

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 著者小曽戸洋(こそと ひろし)先生にはじめて原稿をお願いしたのは、〈日中文化交流史叢書〉第8巻『科学技術』(吉田忠・李廷挙 編、1998年刊)中の収録論文「漢方の歴史」の執筆でした。医史学という大変大事な学問の中でも漢方の歴史の研究者は少なく、小曽戸先生にお願いできたことは誠にありがたいことでした。

 原稿を拝読したり、先生とお話ししたりしているうち、そういえば「漢方の歴史」をわかりやすく説いた手頃な本は出版されていないのではないかと思い当たり、早速先生に一冊の本としてまとめていただきたい旨相談したところ、二つ返事で書きましょうとのこと。これが2014年9月、15年ぶりに新版が出た『漢方の歴史―中国・日本の伝統医学』(1999年初版)誕生のそもそもの話です。

 『漢方の歴史』御執筆中、北里大学の先生の研究室では、ずいぶんと漢方に関する興味深い話を伺いました。典籍収集のお話も面白く、時間があれば神田神保町の古書店街を捜し回ったそうです。医史学の分野にはあまり詳しい古書店員もいないらしく、掘り出し物もあったとか。ある時、日本で刊行された漢方関係の典籍に話が及び、その際先生の貴重な研究資料も見せていただきました。私には日本でこれほど多量に漢方典籍が刊行されていたというのは驚きでした。小曽戸先生が集めておられた典籍そのものも膨大な資料ですが、先生は、それら典籍の一冊一冊の諸情報を写真も付して細かくまとめておられました。この資料は編集者としては興味津津のお仕事で、拝見した瞬間、これを漢方関係者が重宝するであろう辞典としてまとめれば、貴重な出版物になるのではないかと先生に申し上げましたところ、先生もその場で即笑顔でOKでした。私の予定では、一年後の良い時期に『漢方の歴史』と『日本漢方典籍辞典』とを同時に発行したい旨も先生にお伝えしました。

 さて、以下は『日本漢方典籍辞典』御執筆中の話です。この辞典の基本的な体裁は、1ページ2段組みとし1典籍の写真と解説を1段に収めるということでした。当然解説文の分量によっては解説文の後ろに何行かの余白ができます。これは、まずは先生の作成資料をもとに初校を出して検討しようということにしました。先生からの早めの初校の戻りを拝見してびっくりしました。なんと、余白の行がすべて適切な字数で埋まっていました。しかも余計な情報ではありません。関連する貴重な書誌情報や著者の略伝などがほとんどです。小曽戸先生の豊富な情報量とお仕事の速さに感服した次第です。

 このように、先生のお仕事はほとんど停滞することなく進み、1999年に、『漢方の歴史』と『日本漢方典籍辞典』とが同時に発行されました。

 それぞれの本の詳しい内容は、弊社の出版案内をご覧ください。なお先程触れましたように、昨年2014年には新たに『新版 漢方の歴史―中国・日本の伝統医学』が発行されました。改訂版としては意欲的な増補内容になっています。

 そしてなんと、若手のホープ天野陽介先生との共著『針灸の歴史―悠久の東洋医術』も発行されました。帯にもありますように、「ついに登場!」です。この本の「まえがき」には、「針」と「鍼」の字体についての言及があります。弊社の漢字愛好家のお客様には大変示唆に富んだご指摘ですので、どうぞご一読ください。

 小曽戸先生に最初にお付き合いいただいた編集者としましては、先生の衰えを知らぬ学問追求の旺盛さにはただただ頭が下がるばかりです。(玉木輝一)

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