以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0502
「あわただしい」は、「慌ただしい」と書く場合と「慌しい」と書く場合があるようですが、どちらが正しいのでしょうか?
A
何はともあれ、まずはGoogleで両者を検索してみましょう。ただし、単純に「慌ただしい」と「慌しい」で検索しても、Googleは両者を同一視してしまうようなので、””を付けてフレーズ検索してみました。結果は、表のようになりました(2007年9月28日午前9時20分時点)。
両者の勢力はほぼ互角。手に汗握る戦いですね。この結果がどこまで実態を反映しているかは、判断のむずかしいところですが、どちらかがはるかに優勢、というような状況ではなく、両者ともに使われていることだけは、確かでしょう。
送り仮名をどのように送るかについては、Q0046やQ0080でご紹介した内閣告示「送り仮名の付け方」という決まりがあります。この中から、「あわただしい」に関係する部分を抜き出すと、に次のようになります。
通則1
本則 活用のある語(通則2を適用する語を除く。)は、活用語尾を送る。
通則2
本則 活用語尾以外の部分に他の語を含む語は、含まれている語の送り仮名の付け方によって送る。
「あわただしい」の活用語尾は「しい」ですから、通則1に従えば「慌しい」となります。しかし、「あわただしい」の中には「あわてる」が含まれているのだと考えると、通則2を適用しなければなりません。「あわてる」は通則1に従って「慌てる」と送りますから、「あわただしい」も「慌ただしい」でなければならないことになるのです。
「慌しい」と「慌ただしい」の違いは、これが原因です。以前は、「あわただしい」という訓読みそのものが「当用漢字音訓表」に入っていなかったこともあって、どちらを使うかの基準はありませんでした。しかし、1973年に「当用漢字音訓表」が改訂された際に「あわただしい」が収録されたのをきっかけとして、文部省作成の「文部省公用文送り仮名用例集」に、「慌ただしい」が採用されることになりました。その結果、現在の辞書などでは、「慌ただしい」の方が一般的になっています。
というわけで、辞書出版社としては、最初のGoogleの検索結果で「慌しい」もかなり使われていたというのは、ちょっとショックな事実なのです。この理由は、どこにあるのでしょうか?
パソコンで「あわただしい」と入力して変換してみると、MS-IMEでは「慌しい」「慌ただしい」の両方が出てきます。どうやら「慌しい」の応援団はこんなところにいたようです。少なくともパソコンの世界では、辞書よりも文部省よりも、マイクロソフトの方が強いのです。