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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0328
「よろしく」を「宜敷く」と書くのは間違いですか?

A

明治の文豪の小説などを読んでいると、よく「宜敷」に出会います。たとえば島崎藤村の名作「破戒」の最初の方に、次のような一節があります。

「いずれ後刻御目に懸って、御礼を申上げるということにしましょう。何卒皆さんへも宜敷仰って下さい」

ですから、「宜敷」が間違いだというわけではありません。ただ、現代では、あまり一般的でない書き方だ、とは言えると思います。
「宜」という漢字は、「適宜」「便宜」といった熟語からもわかるように、「都合がよい」とか「ふさわしい」という意味を持っています。ですから、訓読みで「よろしい」と読むこともあるのです。
ところが一方の「敷」の方は、たしかに訓読みで「しく」とは読みますが、「よろしく」の「しく」は形容詞の活用語尾であって、「ふとんを敷く」などの「敷」とはなんの関係もありません。つまり、「よろしく」を「宜敷」と書くのは、少なくとも「敷」については当て字だということになるのです。
現在では、この種の当て字はあまり用いられなくなっています。しかし、昔は「敷」を「しく」の当て字として用いることは多かったようです。「六ヶ敷」と書いて「むつかしく」とか、「ある間敷」と書いて「あるまじく」などというのは、時折見かける書き方です。
現代において、当て字を多用することがよいかどうかは別として、「よろしく」を「宜敷」と書く背景には、そのような歴史の積み重ねがあるのです。

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