以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0292
漢和辞典の「戈(かのほこ・ほこづくり)」という部首のところには、「戴」や「截」は収録されているのに、「栽」「裁」「載」などが見あたらないのはなぜですか?
A
これらの漢字に共通して見られる図のような部分は、もともとはサイと音読みする独立した漢字で、「きずつく」という意味を持っています。しかしこの漢字が独立して用いられることはきわめてまれで、むしろ、形声文字の音符(発音を表す部分)として使われることが多いのです。
「栽」「裁」「載」などはその典型的な例で、これらの漢字では、問題の部分はサイという音読みを表しています。残りの「木」「衣」「車」は、形声文字の意符(いふ)と呼ばれる部分で、その漢字が表している意味を暗示しています。
具体的にいうと、「栽」という漢字の形には、「木」に関係する意味を持ったサイという発音をすることばを表す漢字ですよ、という情報が含まれていることになります。ここでの発音とは、漢字が作られたころの中国語での発音ですから、当然ながら、私たちにはこんなことを言われてもピンと来ません。しかし、当時の中国人にしてみれば、ああ、それならば「木を育てる」という意味のあのサイのことだな、とわかったのでしょう。
さて、部首とは本来、主にこの意符を基準にして漢字を分類する方法なのです。そこで、伝統的な分類によれば、「栽」の部首は「木」、「裁」の部首は「衣」、「載」の部首は「車」ということになるのです。
その調子でいくと、「戴」の部首は(音読みはやや変化してタイですが)「異」だということになります。しかし、残念ながら現在の部首分類の中には、「異」という部首はないのです。そこでしかたなく、「戈」に収めてある、というわけです。また、「截」の方は、この漢字はもともと「雀」+「戈」が変形して生まれたとされています。そこで、「隹」ではなく「戈」を部首にしているのでしょう。
以上でおわかりのとおり、部首というものは、秩序立っている部分とそうではない部分とがあって、一筋縄ではいかないのです。それを嫌って、漢和辞典によっては、これらの漢字をすべて「戈」に収めてしまう、といった部首の変更を行っていることもあるのです。
ちなみに、「異」という部首がない理由は、はっきりとはわかりません。部首による漢字の分類を初めて行った『説文解字(せつもんかいじ)』という字書には「異」という部はがあることはあるのですが、そこに所属しているのは「異」自身と、「戴」の2文字だけです。そんなつつましい所帯だったので、時の流れとともに、解体されてしまったのでしょう。ちょっとかわいそうなお話です。