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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0291
「進捗」の「捗」の右側は、「歩」と同じように書いていいのですか? 1画少ない形が正しいのではないですか?

A

029101ご質問のとおり、「捗」には、図の赤い部分があるものとないものの、2つの字体があります。現在、一般にパソコンなどで表示されるJIS漢字の字体(JIS字体)は赤い部分があるものですが、漢和辞典の世界では、伝統的に赤い部分がないものを正しい字体としています。
このような食い違いが生じた理由を理解するには、当用漢字制定のころまでさかのぼらなくてはなりません。当用漢字が制定されたとき、それまで複雑だった漢字の字体が簡略化されましたが(新字体)、その中で例外的に、画数が増えた漢字がありました。その代表格が「歩」です。
029102「歩」は、それまでは図の赤い部分がないものが正しい字体とされてきましたが、書きやすさを考えてのことでしょうか、現在私たちが使っているような、赤い部分があるものが正しいとされることになったのです。
これだけであれば、「捗」に関する食い違いは生じません。しかし、「捗」は当用漢字には含まれていなかったことが、話をややこしくすることになりました。なぜなら、当用漢字によって字体が簡略化されたとき、当用漢字に含まれない漢字については、なんの取り決めもなされなかったからです。
その結果、「捗」の字体は「歩」とは無関係に考えて、従来どおりに赤い部分がないものを正しいとする立場と、「歩」と同じ変更を「捗」にも加えて、赤い部分があるものを正しいとする立場とが、並立することになったのです。
当用漢字はその後改定されて常用漢字となりましたが、状況に変化はありませんでした。学校教育での漢字指導は、常用漢字の範囲内で行われることになっていますから、建前としては、常用漢字ではない「捗」が学校の試験に出題されることはありません。とはいえ、正しい字体について食い違いが生じているのは、困った状況です。そしてこういった食い違いは、「捗」以外にもさまざまな漢字で生じているのです。
この問題については、国語審議会が2000年に「表外漢字字体表」というものを答申しています。これは「常用漢字表」に含まれない漢字の字体を、初めて定めたものです。それによれば、「捗」は赤い部分のないものが正しいとされていますが、この表の字体がコンピュータの世界に反映されるのは、まだ先のことのようです。

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