当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0440
鎌倉の覚園寺にある「まことの鐘」に刻まれている文章に、「思公血誠」という漢字4文字が出てくるのですが、どういう意味ですか?

A

「まことの鐘」は、第二次世界大戦中に学徒出陣していった若者たちを祈念して、1960(昭和35)年に作られた鐘です。ご質問の銘文は、戦前に東京府知事を務めたこともある香坂昌康(こうさかまさやす)が起草したもので、次のような文章です。

大東亜戦争に於ける戦没学徒の赤誠を敬仰(けいぎょう)する国民の衆志に依り英霊に回向(えこう)し
此のまことの鐘を鋳て之(これ)を全国各地の名刹(めいさつ)に納む
思ふに身を挺(てい)して国難に当りし学徒の思公血誠
此の鐘の響と共に永く人の心に伝わりて滅することなかるべし

どうやら覚園寺(かくおんじ)だけではなく全国のお寺にあるようで、その発起人になったのは東京の品川にある品川寺(ほんせんじ)の大僧正であったようです。
さて、問題の「思公血誠」ですが、市販されている国語辞典や四字熟語辞典に出てくることばではありません。それでも、後半の「血誠」は小社『大漢和辞典』に載っていて、「まこと。丹心。赤誠」と書いてありますから、「誠」を強調した表現なのでしょう。前半の「思公」は、辞書には記載がなさそうなのですが、察するに「公を思う」ということでしょうか。
香坂元東京府知事が勝手に作った四字熟語、と言ってしまえばそういうことにもなりますが、四字熟語なんて、もともとそういうところのあるものです。若くして国のために散っていった学生たちの自己犠牲の精神を、この4文字に込めたものと読み取ればよいのではないでしょうか。

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