当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0088
「国」という漢字はどういう成り立ちでしょうか。またいつごろから旧字体の「國」に代わって使用されているのでしょうか。

A

小学校のころ、漢字の書き取りテストで「国」の字に点を付け忘れて、×になった経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、江守賢治著『漢字字体の解明』(日本習字普及会、1967年)によりますと、この「国」という字は、当用漢字制定以後に漢和辞典に載るようになった漢字で、それ以前は正字はもちろん「國」ですが、俗字としては「囗」(くにがまえ)に「王」を書く形が一般的だったそうです。
008801たしかに、いつもお世話になる角川書店の『書道大字典』を調べてみても、図のような「囗」に「王」の字形はたくさん見つかりますが、私たちになじみの深い「国」は、あまり見あたりません。つまり、昔は点のない方が一般的な字形で、点がある方がむしろ「間違い」だったかもしれないのです!「トリビアの泉」に出せば、けっこう「へえ」をいただけそうなお話です。
ところで、点があるにせよないにせよ、これらの字形は一見、旧字体の「國」とは関係がなさそうに見えます。そこで、「国」の成り立ちとしては、やはり、「王様の治める土地だから」というわけで、「囗」に「王」を書く字が発生して、それに点が付された、というのが1つの説となります。書の世界では、なんとなく、おまけのような感じで点を付すことも、よくあるからです。
008802しかしもう一方で、「國」をくずした書体には、「国」に近いものもいくつか存在します。図は、左側は中国の唐の時代の書家の「國」、右側は日本の空海の「國」です。こういったくずし方から、「国」が発生したと考えることもできそうです。ちなみにこの場合には、旧字体の「或」という部分についている点が、「国」にも残っている、とも考えられそうです。
008803最後に、いつごろから「国」という字体が使われているかですが、点のないものは、中国の隋王朝の時代といいますから、紀元6世紀ごろから例があります。点がある方は、ここまで申し上げたような事情で、よくわかりません。この字については、戦後の当用漢字制定の時に「作られた」字だという説さえあります。
しかし、Q0086のために大枚はたいて購入した天正十七年本『運歩色葉集』の影印本を、せっかくなので調べてみたところ、図のように「國」と「国」が並んで出ているところに行き当たりました。天正17年といいますと1589年、少なくともそのころには、この字形が使われていたようです。

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