当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0349
漢和辞典を調べていると、「暃」「彁」「穃」「碵」など、「音義未詳」と書いてある文字が収録されていますが、音も意味もわからない漢字を、どうして掲載しているのですか?

A

これらの漢字は、そのスジでは「幽霊文字」と言われているものです。幽霊文字とは、主に、JIS漢字に登録されていながら、いくら探しても使用例が見つからず、意味も発音もわからない漢字のことを言います。
どうしてそんな漢字があるのでしょうか?それがはっきりしないところが幽霊文字の幽霊文字たるゆえんなわけですが、その多くは、JIS漢字の選定作業の間に、誤記や勘違いなどによって生まれたと言われています。
それでは、なにゆえにそんな漢字が漢和辞典に収録されているのでしょうか?
ここだけの話ですが、私の経験からすると、おそらくその理由は、「JIS漢字完全収録」とうたわないと漢和辞典の売れ行きに影響するからだろうと思われます。1980年代後半から90年代にかけて、ワープロ・パソコンが急速に普及したことによって、漢和辞典には「JIS漢字が全部収録されていること」が求められるようになりました。そうでない漢和辞典は、時代に取り残されるようになったのです。
そこで、各社の漢和辞典は、競って改訂してJIS漢字を全部収録し、そのことをうたい文句とするようになりました。ところが、幽霊文字を収録しないことにすると、そのうたい文句がウソになってしまうのです。その結果、発音も意味も不明なのに漢和辞典に載っている漢字がある、という奇妙な現象が生まれたのでしょう。
幽霊文字は、漢字というものを公的な基準に仕上げる際の難しさと、コマーシャリズムの不可思議さとを記念して、これからも末永く、漢和辞典の片隅に掲載され続けることでしょう。

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