以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0464
会社の書類に「反って」と書いたら、上司に「却って」が正しいと直されてしまいました。この2つには違いがあるのでしょうか?
A
予想していたのとは反対の結果になったとき、日本語では「かえって」ということばを使うことがあります。漢字で書くときには、「却って」と「反って」のどちらを使っても間違いではありません。
「反って」がよく使われている小説に、川端康成の『雪国』があります。1個所だけ、引用しておきましょう。
そう言って、気のゆるみか、少し濡れた目で彼を見上げた葉子に、島村は奇怪な魅力を感じると、どうしてか反って、駒子に対する愛情が荒々しく燃えて来るようであった。
葉子と駒子という二人のヒロイン。その葉子に魅力を感じると「かえって」駒子に対する愛情が燃え上がる。まったくいい気なものですが、それはともかく、少なくともこの作品では、川端の「かえって」には「却って」はありません。
ただ、別に上司の方におもねるわけではありませんが、現在では「反って」よりも「却って」の方がよく使われる傾向があるようにも思います。その理由ははっきりしませんが、「反」は日常よく使う、字画の少ない簡単な漢字なだけに、なんとなく「予想を裏切って」という場面にはそぐわない、と感じられるのかもしれません。
というわけなのですが、さてさて、上司に従うか、ノーベル賞作家に従うか。その判断は、質問をくださった方ご自身にお任せしましょう。だって、上司に逆らうというのは、時には人生がかかってきますからねえ。くれぐれも、慎重にお考えくださいよ……。