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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0284
「信濃」にルビを振るとき、「しな・の」と分けて振るのがいいのですか、それとも分けずに振るのがいいのですか?

A

日本の地名の漢字には、多くの当て字が含まれています。日本に漢字が渡ってきたのは、3~4世紀ごろのことだと言われていますが、当然ながら、それ以前から日本には地名が存在していました。そこで、古くからある地名であればあるほど、その漢字は後になってひねり出された当て字であることが多いのです。
「しなの」の場合、最初のころは、「しな」に「科」を、「の」に「野」を当てて「科野」と書いていたようです。これだと、ルビを振る場合には「しな・の」と分けて振るのがいいに決まっています。
ところが、8世紀の初めごろ、ちょっと変わった法律が作られました。「地名は、縁起のいい漢字2文字で書き表すように」というのです。縁起のいい漢字を、しかも2つしか使ってはいけないというのですから、けっこうキビシイお話です。
たとえば「むさし」の場合は、このときまでは「牟邪志」などとかかれていましたが、「牟」の代わりに「武」を、「邪」の代わりに「蔵」を使ったところで字数制限一杯になってしまいます。そこで、「し」を表す漢字は省略してしまって、「武蔵」の2文字で「むさし」と読むことにしたと言われています。
「科野」はあまり縁起がいいとは考えられなかったのでしょうか。「しなの」が「信濃」と書かれるようになったのも、このときのことだと思われます。この漢字使いは、「しな」に「信」を、「の」に「濃」を当てたものとも考えられますが、「武蔵」のような例を考えると、「信」は「し」を、「濃」は「の」を表していて、「な」は省略されてしまったと考えることもできるでしょう。
そこで結局、どういう立場を取るかによって、ルビの振り方は変わってくることになります。地名の場合は、このような事情がありますから、ルビの振り方は一定していないのです。

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