当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0257
漢和辞典では、「叫」「糾」の右側は3画で数えるのに、「収」の左側は2画で数えているようですが、どうしてですか?

A

025701問題の部分は、字源的にはすべて同じもので、2画で書くのが本来の書き方です。独立の漢字としても存在していて、『大漢和辞典』によれば、音読みキュウ、意味は「まつわる」とのこと。図は、『大漢和辞典』に収録されたその字形です。これを見ると、2画で書くということが、よくおわかりいただけるのではないかと思います。
025702もともと同一に書かれていたものが、ご指摘のように違って書かれるようになったのは、1949(昭和24)年に「当用漢字字体表」が制定されてからのことです。「当用漢字字体表」で「叫」「糾」「収」の3字がどのような字形になっているか、調べてみると、図のようになります。この3文字の問題の部分を見つめてみると、『大漢和辞典』の字形と違う点として、斜めになっている横棒が、左下に突き出ているのがすぐに目に入ってくることでしょう。
Q0029でご説明したように、活字の字形には時折、手書きとは異なるデザインが見られます。そのため、画数が違って見えることも多いのです。この左下への突き出しも、そういったデザインの一種であると考えることができます。ところが、この3文字をもっとよく見てみると、「叫」「糾」では斜めになっている横棒が右上へも突き出ているのに対して、「収」だけは、右上に突き出ていないことがわかります。実は、この「右突き出し」の有無が問題なのです。
『大漢和辞典』の字形では、問題の「右突き出し」はありません。そこで、「右突き出し」のある「叫」「糾」の2文字の場合は、「左突き出し」との合わせ技で、「当用漢字字体表」に収録される際に、字体が変更されたものと判断されているのです。その結果、従来の右も左も突き出さないで2画で書く字体は旧字体で、「当用漢字字体表」の字体は3画で書く新字体として扱われることになっています。
これに対して「収」の方は、「左突き出し」しかありませんから、これは単なるデザイン差とみなされ、字体の変更ではないと判断されています。その結果、「収」の場合は問題の部分は従来通り2画で書き、新字体と旧字体との間に字体の変更はない、という解釈になるわけです(もっとも、右側の部分の相違によって、「収」の旧字体は「收」だということになっています)。
まったく、こう書きながらも、そんな細かいところに固執しなくてもいいじゃないか、と思います。おそらく、「当用漢字字体表」を作る際、この差は見逃されたのでしょう。そういうケアレスミスが、後世に大きな影響を残しているのですから、漢字の字体とは、つくづく厄介なものです。

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