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『中国語基本語ノート』

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 本書は月刊中国語学習誌『中国語』(1969.4~90.3大修館書店、1990.4~2004.3内山書店)に、1970年4月から連載されていた「基本語ノート」の10年分=120回分を1冊にまとめたもの。ちなみに、同連載はその後も『中国語』が2004年3月に休刊となるまで1回も休まず34年間にわたって掲載され、その後の185回分が『続中国語基本語ノート』(大修館書店)として1996年6月に出版され、残りの101回分が『中国語基本語ノート 補編』(私家版。東京神田の東方書店にて購入可能)として2011年10月にまとめられている。同補編には「正・続・補編 音引き見出し語索引」がつけられており、連載406回分(基本語計432語)について即座に検索できて便利である。
 本書は刊行されると、中国語教授者・学習者に大いに歓迎され、学界でも高く評価されたが、実は、スムーズに世に出されたわけではない。企画会議の初期の段階ではいろいろな意見がのべられ、議論が行われた。
 「中国語における『基本語』とはなにか? 中国で普及している字典でも8500字前後が収載されているという。たった120余りの『字』について用法を解説しているものを『基本語集』として出版するのは疑問である。少なくとも1000字以上にしてから1本にまとめられないか?」「『基本語』といいながら『漢字1字』の見出しが並ぶのは理解できない。常用語についての用法解説となっていないのではないか?」というのが企画に対するおおよその意見であった。
 後者については、たしかに英語には「辞典」はあっても「字典」はない。英語はアルファベットで書き記され、一つ一つの単語の形がはっきりと把握できる。ところがすべてが漢字で記される中国語はそうはいかない。一般に漢字は表意文字といわれ、それぞれに形・音・義がそなわっており、一つ一つが単語(語)であるととらえられる。それですむのならば、「基本字=基本語」だと説明できる。だが、多くの字には複数の形・音・義があって複雑に絡みあっているのが中国語だ。そしてすべてがかならずしも単独で字義をもっているわけでない。他の字と組み合わさってはじめて意味をもち単語となるものがある。また、字義をもっている漢字すべてが単用できるとは限らない。文法的な役割を保持しているからといって単独ではその働きをはたせない字もある。そして、古典語と現代語で字と語の関係が異なり、1字をそのまま語として使えるかどうかの判断も容易ではない。これらの理由から、単語の認定について研究者の間でも意見が一致せず、「単語とはなにか」という悩ましい問題がつねにつきまとっているのが中国語だ。「常用字(語)」の調査も単語の認定の異同から違ったデータがでてきてしまうのである。
 著者の意見もうかがいながら、上の中国語の特徴をふくめ、以下のように、本書出版意義の説明が繰り返し社内でなされ、刊行にいたった。

  • 各種調査データを参考にしつつも、単に使用頻度の高さだけではなく、造語力や機能性を保持する字(語)が採用され、用法を解説しながら中国語を学ぶための基本的知識と心構えが説かれている。
  • 日本人学習者の場合、日本漢語の和訓にひきずられて中国語としての意味を把握できずに誤解するケースがけっこうあるため、日中同字同形語を多く取り上げ、具体例をあげて注意を喚起している。これは、母語である日本語の学習にもつながる。
  • 120あまりの基本語でも、一つ一つの意味や用法が的確な用例とともに詳細に説明され、読後の中国語学習に大いに役立つ。
  • ことばの背景にある中国人の生の日常生活が随所で紹介され、ことばの理解を深められる。
  • 用例のすべてに、的確に分かち書きされた中国語ローマ字と、適度に直訳風の日本語訳がつけられ、文の組み立てを把握する手助けとなるよう配慮されている。

 
 社内での論議があってこそ本書の特色がいっそう浮かびあがった。著者は「1.基本語とは」、「2.常用語のデータ」、「3.常用字のデータ」、「4.『基本語』の参考資料」からなる「序論」をあらたに執筆してくださった。
 雑誌連載が100回に近くなったあたりから「雑誌のままではばらばらなので工具書的に活用するための単行本化を望む」との声が寄せられていたが、それに応えて、取り上げられた語(字)の要点を把握しやすくするための工夫について著者とも相談し、雑誌の形のままでなく本文の両サイドに各語(字)の本義と転義、用法などの注意すべき点を要領よく小見出しで示すというアイディアも検討され実現された。
 本書が今もって新鮮さを保持しているのは、激動する中国社会のなかを生きつづける「ことばの芯」を的確にとらえ、すみずみまでゆきとどいた説明がなされているからにほかならない。本書を開けば上記の各ポイントをすぐに確認できるはずだ。
 本書刊行後、多くの辞典が出版されたが、『続編』『補編』もあわせて利用されれば、いずれにも見出せなかった多くの「目からウロコのことばの発見」ができることは間違いない。(舩越國昭)

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