以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0120
法律関係では「冒用」という熟語があるのですが、国語辞典や漢和辞典には出ていません。これは特殊な用語なのでしょうか?
A
初めて聞く熟語ですね。たしかに『大漢和辞典』にも出ていませんし、小学館『日本国語大辞典』にも出ていません。しかし、試みにインターネットで検索しますと、「名義冒用」などの形で、意外なほど多くの数のヒットがありました。全て法律関係のサイトのようですが、たしかに、現在でも生きている熟語なのでしょう。
「冒」という漢字は、訓読みでは「おかす」ですが、この「おかす」には2種類あるように思われます。1つは、危険をかえりみずに何かをする、という意味、「冒険」がその代表例です。もう1つは、神聖な領域や他人の領域に乱暴に踏み込む、という意味で、「冒涜」(ボウトク。「涜」の正字がパソコンでは出ないのはご勘弁を)がその代表です。
『大漢和辞典』を眺めていると、この後者の意味がさらに発展して、他人のものを自分のものにする、というような意味で「冒」が用いられている熟語が目につきました。「冒取」は他人のものをいつわって取る、「冒認」は他人のものをいつわって自分のものだと認める、「冒名」は他人の名をかたる、「冒領」は他人のものをいつわって受け取る、などなどです。おそらく「冒用」も、こういった一連の熟語と同じような「冒」の使われ方から生まれた熟語なのでしょう。そういう意味では、それほど特殊な熟語ではないのかもしれません。
でも待ってください。今、「冒認」をインターネットで検索してみましたが、こっちも「冒認出願」の形で、法律関係のサイトばっかりです。やっぱり、法律の世界でのみ生きていることばなんですよね……。