以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0196
「魚」や「点」の「よつてん」は「大」と書くことがありますが、「黒」や「薫」の「よつてん」を「大」とは書かないように思います。なぜなのでしょうか?
A
「よつてん」とは、漢字で書くと「四つ点」で、点が4つ並んだ形をした部首を指す名前の1つです。この部首は、もともとは「火」という形から変形したものなので、「れんが(連火)」とか「れっか(列火)」とも呼ばれています。したがって、漢和辞典を調べてみればわかりますが、「よつてん」を含む漢字は、何らかの形で「火」と関係した意味を持っていることが多いのです。
ところが、「魚」という漢字は見てのとおり、サカナを縦に置いてみて図案化した象形文字です。ですから「よつてん」の部分はしっぽにあたるわけで、部首の「よつてん」とは全く関係がありません。正確には、「『魚』の『よつてん』」という言い方そのものもちょっとおかしい、と言うべきでしょう。
この「よつてん」を「大」と書く漢字は、基本的には略字の類に属しています。つまり、正式な漢字はやはり「魚」「点」であって、点を4つ書くのがめんどくさいという人が、省略形として「大」を採用した、というわけです。
というわけで、もともと正式な字ではありませんから、ある漢字では「大」と書いてもよいが、ある漢字ではいけない、というような決まりがあるわけではありません。ご質問のとおり、「黒」や「薫」の「よつてん」を「大」と書く例には、たしかにあまりお目にはかかりません。しかし、どこかのだれかがそう書いていたとしても、バランスが相当悪い漢字にはなりますが、びっくりすることではないでしょう。
ただし、「魚」の「よつてん」を「大」と書くのは、単にめんどくさいからというだけでもないようです。写真はあるお寿司屋さんの軒先にあった提灯ですが、「よつてん」が「大」になった「魚」は、このようにお寿司屋さんで使われることが多いのです。そしてその理由として、「ネタが大きい方がいいから」という、いわば一種の縁起かつぎなのだ、という話を聞いたことがあります。
先にご説明したとおり、「魚」の「よつてん」はしっぽでした。そこで私に言わせれば、いくらしっぽが大きくったって、肝腎の身が大きくなければ、寿司ネタとしてはどうしようもないんじゃないか、ということになるのですが、みなさん、どう思われます?