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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0438
「安全」という熟語は、漢字だけ見ると「安い」と「全て」の組み合わせですが、どうしてこんな漢字を使うのですか?

A

街中で「安」という漢字を見かけると、どこかで「大安売り」をやっているのではないか、とキョロキョロしてしまうのは、よほどのセレブでない限り、私たち日本人共通の現象でありましょう。しかし、「値段が低い」という意味でこの漢字を用いるのは、実は本来の用法ではありません。
「安」の部首である「宀(ウ冠)」は、「家」を表しているとされています。そこで「安」は、家の中で女性がくつろいでいる様子から、「やすらか」という意味を表すようになったと説明されています。「安泰」「平安」といった熟語に見られる「安」が、その代表的な例です。
「安」の本来の意味が、以上の通りだとすると、日本でこの漢字を「やすらか」と読んで用いるようになったのは、当然の結果と言えるでしょう。ところが日本語では、この「やすらか=やすい」に、「値段が低い」という意味もあるため、「安」という漢字は本来の意味を離れて、その意味でも使われるようになりました。つまり、「大安売り」の「安」は、日本語独自の用法なのです。
一方の「全」の方は、たしかに「すべて」という意味の漢字です。「すべて」とは、言い換えれば「欠けているものがない」「そろっている」という意味でもあります。たとえば「健全」とか「万全」という熟語に見られる「全」は、そういう意味として解釈した方がわかりやすいでしょう。
そこで、「安全」とは「やすい」と「すべて」の組み合わせではなく、「やすらか」で「欠けているものがない」状態を表す熟語だ、と理解することができます。「危険」の反対語としての意味は、ここから生じているのです。
「安」は小学校3年生で学習しますから、ふつうの大人なら知っていないと恥ずかしい漢字でしょう。しかし、そんな身近で簡単な漢字の中にも、中国から日本へと渡ってきた漢字の歴史が封じ込められている――。そこが、漢字のおもしろいところだと私は思います。

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