当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0389
「白」という漢字は、「しろ」という意味の他に、まったく関係のない「打ち明ける」という意味を持っていますが、どうしてですか?

A

「告白」「自白」といった熟語を考えてみればわかるように、たしかに「白」には「打ち明ける」という意味で使われることがあります。ただし、「独白」「敬白」といった熟語もありますから、「打ち明ける」というよりは単に「話す」「申す」という意味だと考えた方が無難でしょう。
このように、漢字には、一見、まったく関係のなさそうな複数の意味を持っているものがたくさんあります。そして、どういう理由でそんなことになってしまったのかは、一字一字、個別の事情があって、実にさまざまなのです。
「白」の場合、この字がどうして「話す」という意味を持つに至ったかについて説明してある書物を、私はほとんど見たことがありません。ただ1つだけ、白川静『字統』(平凡社)には、「白」には「潔白」の意味があって、「そのことを主張する意から告白・自白の意となる」と書いてあります。白川先生、さすがです。
この白川説によれば、「白」が表す「話す」とは、本来は「身の潔白を主張する」という意味だ、ということになります。とすると、「告白」はともかく「自白」というのは、現在では、本来の意味からするとまったく反対の意味で使われていることになって、なかなか興味深いところです。
ところで、小社『大漢和辞典』には、「白」の意味として、「もうす。のべる。上へ向かって意見を陳述する」と書いてあります。この説明を読んでいると、白川説と微妙に共鳴しているように、私には思えてきました。つまり、「身の潔白を上へ向かって訴える」という、いかにもせっぱ詰まった苦しいイメージを、「白」に対して抱くことはできないでしょうか?
空想をふくらませるのは、これくらいにしておきましょう。ただ、漢字は一字一字、個別の事情によって、さまざまな意味を持つようになっています。その事情を推測するには、時には空想の力を借りる以外に、方法がないこともあるのです。

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