以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0340
「試傭」という熟語があるのですが、これは「試用」とは違うのですか?
A
「傭」というのは、音読みはヨウ、訓読みだと「やとう」と読む漢字です。「やとわれママ」なんて言うときには「雇われママ」と書くことが多いですが、この「雇」と基本的には同じ意味です。
この「やとう」という意味を共有する「雇」「傭」の2文字を組み合わせて「雇傭」と書いてコヨウと読む熟語があります。賃金を払って人に働いてもらうことを意味する熟語で、かくいう私も、大修館書店に「雇傭」されているわけです。
「雇傭」という熟語は、かつては一般的に用いられていたようですが、現在ではあまり用いられず、その代わりに「雇用」という熟語が用いられます。これは、「傭」という漢字が当用漢字ではなかったことに起因しています。当用漢字の範囲内で日本語を書き表すために、「雇傭」を「雇用」と書き換える習慣が生まれたのです。
そこで「試傭」ですが、これは「試みに雇傭すること」という意味の熟語です。ところが「雇傭」が「雇用」に書き換えられるようになったため、「試傭」も「試用」に書き換えられることになったのだと思われます。その点で、「試傭」と「試用」とは、同じ意味であると言えるでしょう。
ただし、「試用」の場合は、本来は単純に「試みに用いる」ことですから、人間を傭うこととは無関係に使うことができる熟語です。この観点からすれば、「試用」は「試傭」よりも守備範囲の広いことばだということができるでしょう。