以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0282
紙は木から作るのに、どうして「紙」という漢字は「糸」へんなのですか?
A
大好きです、こういう素朴なご質問!
このご質問に対するお答えは、紙の歴史をひもとくことで明らかになります。中国の歴史書によれば、紙を発明したのは蔡倫(さいりん)という人で、彼が紙を発明して、初めて皇帝に献上したのは紀元105年のことだとされています。
蔡倫が作った紙は、木の皮や、麻、さらには使い古した網などを用いて作られていたと記録にあります。つまり、現在のようにパルプという木を原材料にして紙を作っていたわけではないのです。そこで、「紙」の「糸」へんは、糸くずのような繊維質のもの一般を表しているのだと考えるのがよいでしょう。
ところで、以上のことを調べているうちに、私の頭に中にちょっとした疑問が生まれました。紙を発明したのが蔡倫だとすると、彼の発明したものを表す「紙」という漢字を作ったのも、蔡倫なのでしょうか?
「紙」という漢字は、中国最古の字書といわれる『説文解字(せつもんかいじ)』にも収録されています。この字書が出来上がったのは、ちょうど紀元100年のこと。蔡倫が紙を発明したのは、先ほど申し上げたとおり紀元105年のこと。あれあれ、ちょっと待ってください。紙の発明より前から、「紙」という漢字は存在していることになるじゃないですか!
そこで、「紙」という漢字には「かみ」以外にも古くから使われている意味があるのかとも思いましたが、『大漢和辞典』を調べても、そんな意味はありません。これはいったい、どういうことなのでしょうか。
実は、現在では、考古学的な発見によって、蔡倫より前から紙が存在していたことがわかっているのです。蔡倫は、紙の発明者であるというよりは、その改良者であったとするのが定説なのです。
そんなことは知ってるよ、とおっしゃる方もいるでしょう。でも、私が言いたかったのは、ちょっと別のことです。つまり、考古学的な発見がなくても、「紙」という漢字そのものが、蔡倫より前から紙が存在したことを示していたのではないでしょうか。
だとすると、ちょっとおもしろいお話でしょう?