当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0161
『朝日新聞』の題字の「新」の字は、よく見ると「木」の部分が「未」になっています。そのような字は実在するんでしょうか?

A

016101確かにそうなんですよね。昔からこれに気の付いた人はいるようで、調べたところ、1963(昭和38)年1月21日付け『朝日新聞』の「読者と新聞」という欄に、同じ趣旨の質問が載っています。尋ねた人は、千葉の学生と東京の会社員になっていますから、複数の人が、この字について疑問を持っていたのに違いありません。
この記事によりますと、『朝日新聞』の題字は、7世紀ごろの中国の書家・欧陽詢(おうようじゅん)が書いた「宗聖観記(そうせいかんき)」の中から集めたものだそうです。ところが、問題の「新」の字だけはその中になかったので、「親」と「柝」から寄せ集めて、ご丁寧なことに「ヽ」を削って作り上げた、なんていうおもしろい話になっています。だとすると、欧陽詢は「親」の「木」の方を「未」と書いていたことになるのですが、これは誤字なのでしょうか?
実は、そうでもないのです。「新」にせよ「親」にせよ、この左側の部分は、一般に、「辛」と「木」とから成り立っている、と説明されています。そして、この2つの字がともにシンという音読みを持っているのは、この「辛」という字の音読みがシンであることに由来している、というのです。
016102「辛」と「木」を縦に並べて書くと、私たちの知っている「新」の左側より、横棒が一本多くなります。図は、「新」の古い字形の1つ(篆文)ですが、これを見ると、そのことがよくわかります。つまり、『朝日新聞』の題字の「新」という字は、ややもすると、私たちがふだん使っている「新」という字よりも、字源的には「正しい」とさえ言えるのです。
そのあたりの事情について、先に挙げた『朝日新聞』の記事では、「漢字が太古の象形文字からだんだんに変化して今日のような字体にたどりついた過程の中で、千数百年前にはこのように書かれていたというわけです。」と説明しています。
この字のような書体は、一般に隷書(れいしょ)と呼ばれる書体に分類されていますが、昔は、書籍や雑誌などの題字を隷書で書くことが多かったようです。図書館に行って、古めかしい書物の背などを眺めてみると、きっと、今まで見たことのなかったいろいろな字に出会えるに違いありません。漢字マニアにはおすすめですよ。

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