当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0231
「博士」ということばは、ハクシとハカセ、どちらが正しい読み方なのですか?

A

現在、私たちが使っている「博士」ということばは、博士号を取得した人、あるいは比喩的に学識の豊かな人を指して用いられています。しかしこのことばは本来は、王朝時代、学問をつかさどっていたある役職を指すことばでした。役職ですから、当然一定の職務が伴っていましたし、定員もあったようです。私たちの感覚で言えば、「教授」に近いことばだと考えればよいのではないでしょうか。
一般に、この「役職としての博士」を表す場合には、このことばはハカセと読むのだとされています。それに対して、現代社会の「博士号を取得した人」のことを指す場合には、ハクシと読むのが正しいようです。つまり、「工学博士」はコウガクハクシですし、「博士課程」もハクシカテイが正しい、ということになります。
しかし実際には、「博士号を取得した人」の場合も、ハカセと読まれることが多いのはご存知の通りです。国語辞典を調べても、ハカセと読むのはハクシの通称なのだ、と出ていることが多いようです。
そもそもこのハカセという読み方、どこから来ているものなのでしょうか。漢和辞典をいくら調べても「博」にハカという読みはありませんし、「士」にセという読みもありません。実は、この読み方の起源については、定説はないのです。しかし、『日本書紀』などによれば、応神天皇の御世に、朝鮮半島にあった百済(くだら)という国から、「博士」がやってきて『論語』などを初めて日本にもたらした、ということになっています。そんなこともあって、ハカセという読み方の起源は百済語ではないか、という説もあるようです。
応神天皇のお話が史実かどうかは別にしても、「博士」ということばが、日本に漢字が入ってきたごく初期のころからあったことは間違いないでしょう。これをハカセと読むのが百済起源だとすると、ハカセは、日本人と漢字の長い長い関係の歴史を、ずっと生き抜いてきたことばであるのかもしれません。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア