以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0225
「巨」の部首を漢和辞典などでいろいろ調べてみると、「匚(はこがまえ)」「工(こう)」「二(に)」など、いろいろあるようです。いったい、どれが正しいのですか?
A
そうなんですね、この漢字の部首は、けっこうめんどくさいんですよ。
例によって、この漢字の成り立ちをさぐってみるところから始めましょう。図に掲げたのは金文(きんぶん)と呼ばれる古い字形の「巨」ですが、人が何かを手に持っているように見えませんか?これはふつう、人が手に定規を持っている形だと説明されています。
その定規の部分だけがだんだん拡大されて現在の字形に変化していくわけですが、そこからすると、「巨」の字は、「工」のような形をした定規の真ん中に、取っ手のようなものが付いた形だということになります。
この理屈からすると、この字の上下にある横棒は、左側にも突き出ていなければなりません。実際、旧字体では図のように、わずかではありますが突き出していたのです。ところが、第二次世界大戦後、当用漢字の制定に伴って、この字は現在見るように、上下の横棒が左側には突き出ない形に変更されたのです。
さて、この事情を踏まえると、部首のお話はいたってわかりやすくなります。もともとこの字の部首は、成り立ちから言って「工」でした。しかし、新字体で字形が変更されたことによって、形の上ではこの字は「工」とは縁が切れてしまったのです。しかたがないので、漢和辞典編集者はこの字を「匚」に入れておくことにした、というわけです。私自身は、この字を「二」に入れてある漢和辞典は記憶にないのですが、どちらであれ、しかたなしに入れていることには変わりがありません。