以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0206
「広」の旧字体の「廣」には、「广」の中がふつうの「黄」になっているものもあるみたいですが、どちらが正しいのですか?
A
ふつう、「広」の旧字体をパソコンで表示しようとすると、「廣」という字体になるはずです。この字は、一瞬、「广」に「黄」を書いたように見えますが、拡大してよく見ると図のようになっていて、私たちがよく知っている「黄」よりも、横棒が一本多いことがわかります。この字はいったい何なのでしょうか。
これは、「黄」の旧字体と呼ばれている漢字です。つまり、当用漢字が制定されるまで、「黄」という漢字はこの図のように書く方が正式であったのです。そこから推測されるとおり、「廣」という漢字も、これは「広」の旧字体ですから、かつてはこちらを書く字形の方が正式であったのです。そしてそれは現在でも踏襲されていて、パソコンではこちらの字形しか表示できないのが普通です。
とはいえ、それはあくまで辞書的に見て「正式」だという程度のお話です。昔の人が書いたものを見ても、「广」の中がふつうの「黄」になっている字はたくさん見られます。漢和辞典や印刷書体などでは「廣」の方が正式であったとしても、一般の日常生活で手書きするときは、一本横棒が少ないものを書くことも多かったようなのです。
私どもの会社のほど近く、東京は神田神保町の交差点のところに、「廣文館書店」という本屋さんがあります。そこの軒先に出ている「廣」の字は、以前は左側の写真のように横棒が一本少ない方で、字体マニアを喜ばせていたのですが、最近掛け替えられて、右側のようになってしまいました。どちらが「本当」なのかわからないと言ってしまえばそれまでですが、どちらも「本当」なのだ、と言うこともできるでしょう。つまり、どちらも同じ「ひろい」という意味の漢字なのですから、どちらでもいいのです。
ただし、人名などの場合、細かい点にこだわりたくなるときもあります。その場合、どちらが正式かと言われれば、やはり漢和辞典的には、パソコンで表示できる「廣」の方ですから、判断がつかない場合はこちらにしておくのがよいと思います。