以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0203
「悲」という漢字には「心」が付いているのに、「喜」には付いていないのは、なぜですか?
A
「喜」という漢字は、成り立ちの上からは、一番下の「口」の部分と、それより上の部分とに分けることができます。上の部分は、「太鼓」の「鼓」の左側と同じで、打楽器の象形文字だという説が多いようです。確かに、オーケストラのティンパニだとか、あるいは和太鼓のような打楽器に、見えないこともありません。
「口」の方は、ことばを意味する符号と考えてよいでしょう。そうすると、「喜」という漢字は、打楽器を叩きながら歌っているようすを表していることになります。ただし、歌っているといっても、カラオケでもなければラップでもありません。中国の古代においては、それは神に捧げる祈りの歌であったと思われます。
つまり、「喜」という漢字のもともとの意味は、神様に対して祈りの歌を捧げる、というようなものだったようなのです。それによって神を喜ばせる、あるいは歌い手の気分が高揚することから、「よろこぶ」という意味が生じてきたのでしょう。
このような事情で、「喜」には「心」は付いていません。「心」の付いた「よろこび」を探すなら、「悦」という漢字があります。この漢字は、『常用漢字表』では「よろこぶ」という訓読みはありませんが、もともとはまさに「よろこぶ」という意味です。その左半分にある「りっしんべん(立心偏)」は、「心」が変形したもの。そこで、字面からいえば、「悲」と対になるのは、「喜」ではなく「悦」である、ということになるのかもしれません。