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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0186
病名で、白内障や緑内障の「障」と、失語症や自立神経失調症などの「症」とは、どういう違いでつけられているんでしょうか?

A

なかなか意表を衝いたご質問ですね。「症」は、「やまいだれ」が付いていることからもわかるように、病気に関係する漢字なのですが、「障」の方は、どうしてこの字が病気の名前に使われているのか、考えてみたこともありませんでした。
調べてみますと、白内障ということばは、実は「白」と「内障」とから成り立っているようです。『大漢和辞典』には「内障眼(ないしょうがん)」という漢語が載っていて、これはある種の眼の病気のことで、和語でいうと「そこひ」だという説明があります。といわれても、「そこひ」は現在ではあまり使われないことばなので、すぐさま納得、というわけにはいきませんよね。
そこで、国語辞典などで調べてみると、「そこひ」は漢字で書くと「底翳」で、「底」は眼球の中のこと、「翳」は影のことで、眼球の中に影のようなものが見える病気一般を指しているようです。そして、その影の色によって「しろそこひ」「あおそこひ」「くろそこひ」の3種類があるそうです。
興味深いことに、「内障」と書いて「そこひ」と読む例も、15世紀ごろからあるそうです。そこからしても、昔「しろそこひ」と呼ばれていたものが今の「白内障」、「あおそこひ」が「緑内障」、「くろそこひ」が「黒内障」であることは明らかなように思われます。つまり、これらの「障」は、もともと、「内障」という漢語に由来しているわけです。
一方の「失語症」ですが、こちらは読んで字のごとく、「ことばを失う病気」という意味です。英語ではaphasiaというのですが、このa-は、何かが欠如していることを表していて、phasはことばのこと、-iaは名詞であることを表しているのだという話を読んだことがあります。とすると、aphasiaと失語症とは全く同じ構成をしていることばだということになり、そこからして、失語症は明治以後の翻訳漢語ではないかと思われます。
「白内障」が少なくとも500年以上の歴史があるのに対して、同じショウでも、「失語症」はまだまだ生まれたてのことばである、といえそうです。

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