以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0116
漢字テストで、「後」の「夂」の1画目が上に突き出ていないという理由で×になったのですが、ここは突き出ないと間違いなのでしょうか?
A
このQ&Aコーナーのあちこちで申し上げているとおり、小社漢和辞典編集部としては、漢字の字体の軽微な差異を問題にするのは、あまり意味がないと考えております。また、Q0078やQ0101でも触れたとおり、『常用漢字表』の「(付)字体についての解説」という文章を見る限り、文部省(現・文部科学省)も同じような立場にあることと考えてよいでしょう。
そういう立場からすると、「夂」の1画目が突き出ていないと間違いだ、というのは、ちょっと厳しすぎる考え方だと言わざるを得ません。
しかし、だからといって、どんなふうに書いてもよい、というわけでもありません。当然ながら、許容範囲内のものと、それ以外のものとが出てきます。その基準をどのように立てるかについては、いまのところ、次のようなことが考えられると思っております。
1:標準字体に比べて、画数が変わらないこと。
2:標準字体と比べて、画の角度が45度以上変わらないこと。
3:漢字の全体・部分が、別の意味を持つ部分になっていないこと。
「夂」について問題があるとすれば、このうちの3です。現在の常用漢字で「夂」のように書くものは、字源をたどっていくと、元々はいくつかの別の要素にたどりつきます。たとえば「冬」のこの部分は今と変わらず「夂」ですが、「夏」のこの部分は元は「夊」のように、3画目が突き出ている形をしていましたし、「変」のこの部分は元は「攵」の形で、それぞれ違う意味を持つ、別個の要素なのです。
この3つを区別するための議論であれば、それなりの意味を持つとは思うのですが、1画目を突き出すかどうかは、この3つの区別には関係していません。従って、やはりこの部分にこだわるのはあまり意味がないというのが結論です。
なお、この3つを区別するというのは、あくまで字源レベルでのお話で、常用漢字とは別レベルでの議論です。学校教育は常用漢字の範囲内で行われるわけですから、この3つを区別する必要は全くありません。