当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0369
中国の神話に出てくる「羲和」という人物の名前は、ギワと読むのですか、ギカと読むのですか?

A

「羲和」というのは、中国の神話の中で、太陽の車の御者をしているという、一種の神様の名前です。ギリシャ神話に出てくるヘリオスという太陽の神も、4頭立ての馬車に乗って、ご苦労なことに毎日東から西へと空を渡るそうですから、洋の東西、似たような役回りの神様がいたわけです。
さて、その読み方ですが、たしかにギワとギカの2通りがあります。漢字には呉音と漢音という2つの音読みがあることは、これまでにもあちこちで触れてきたことですが、「和」の場合、呉音がワ、漢音がカということになります。
呉音と漢音の違いは、時代的な要因や地理的要因に基づくもので、意味の違いではありません。ですから、ある熟語をどちらで読むかというのは、たいていの場合、慣習に従う以外、正解不正解を決める方法がありません。
伝統的な漢文学の世界では、漢音の方が新しいことなどから、漢音を尊重してきました。そこで、「羲和」も漢音でギカと読むのが習慣です。小社の『大漢和辞典』を始め、ちょっと古くからある漢和辞典の多くはこちらの読み方しか載せていません。
しかし一般世間では、「和」という漢字はワという音読みで親しまれています。聖徳太子の「和を以(もっ)て貴(たっと)しと為(な)せ」の時代から、「和」を見てすぐに思い出す読み方はワなのです。そこで、いくら伝統的な漢文の世界ではギカと読むのだ、とがんばったところで、ギワと読む人が増えていくのは世の趨勢というものでしょう。
というわけで、現在ではギワという読みを載せている辞典も少なからずあります。どっちにしろ、本来は中国語であったものを、どのような「日本なまり」で発音するか、という問題です。あまりこだわらなくてもよいでしょう。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア