当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0437
「謦咳(けいがい)に接する」の「謦」「咳」とは、どういう意味の漢字ですか?

A

小社『明鏡国語辞典』で「謦咳」を調べてみると、次のように書いてありました。

せき。せきばらい。「―に接する(=尊敬する人や身分の高い人の話を直接聞く。また、親しくお目にかかる)▽「謦」「咳」ともに、せきの意。

「謦」「咳」についての説明がきちんとしてあるあたりは、手前みそにはなりますが、さすがです。とはいえ、これは国語辞典レベルのお話で、当館漢字Q&Aコーナーとしては、もう少し説明を補足しておく必要があるでしょう。
漢和辞典の世界では、「謦」は軽いせきばらい、「咳」は重いせきばらいを表す、と説明されています。つまり同じ「せき」でも、ちょっと種類が違うわけです。両者を組み合わせて、広くせきばらい一般を表す「謦咳」という熟語が生まれたことになります。
このように、微妙に意味の違う漢字を組み合わせて、広く一般的な意味を表す熟語になっている例は、他にもあります。たとえば「網羅」の場合、「あみ」のうち、「網」は本来は大きいもの(または魚を捕らえるもの)、「羅」は小さいもの(または鳥を捕らえるもの)を表していたとされています。それが組み合わさって、「あみ」一般、さらには「網羅する」という形で、すべてを「あみ」の目の中に収めることを意味するようになりました。
また、「波浪」の場合は、本来は、小さい「なみ」が「波」、大きい「なみ」が「浪」だと言います。だとすると、「大きい波」というのは矛盾した表現になるわけですが、現在、ここまで漢字を使い分ける人はまずいないでしょう。
とはいえ、かつての大相撲の「貴ノ浪」関を「貴ノ波」とするとやはり弱々しくなってしまうのでしょうし、サザエさんの「波平」さんだって、「浪平」にするといやに矍鑠(かくしゃく)としたおじいさん、少なくとも髪の毛はもっとふさふさしたイメージになってしまうのでしょう。
そう考えると、漢字というのは、まことに面白いものですねえ。

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