以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0370
履歴書などで「現在にいたる」と書くとき、この「いたる」は「到る」と「至る」のどちらで書くのがよいでしょうか?
A
「至」と「到」は、どちらも「いたる」と訓読みしますが、音読みはシとトウで全く違います。従って、本来の中国語としては、別のことばだと考えるべきでしょう。とはいえ、この両者の意味の違いをきちんと解説したものは、なかなか見あたりません。
字源的な観点から、「至」は真っ直ぐに届くことを表し、「到」は紆余曲折を経て届くことを表すという説があります。「現在にいたる」について考えている私たちにとっては、この説はなんとも意味ありげに響きますが、これはあくまで漢字の成り立ちから考えた説です。現在の日本での使い分けに、そのままあてはめるのは危険というものでしょう。
また、漢文では「至」は目的語を取らず、「到」は目的語を取る、という文法的な観点から解説する辞書もあります。「至」が目的語を取らないのは、「いたる」という行為そのものに重点を置いているからだし、「到」の方は、「いたる」という行為の結果に重点を置いているから目的語を取るのだ、というのです。これまた、前説と響き合ってなんとも意味ありげではありますが、こちらも漢文の世界でのお話。履歴書に適用するのは、ちょっと時代錯誤かもしれません。
結局のところ、現代日本語での「至」と「到」の違いは、よくわかりません。ただし、『常用漢字表』で「いたる」という訓読みが認められているのは、実は「至」だけなのです。したがって、はなはだ無粋な理由からではありますが、履歴書の場合は「現在に至る」と書いた方がよいでしょう。
なんたって履歴書は、人生を左右しかねないことがある大事な書類。意地悪なおじさんから、「キミは『常用漢字表』も知らないのかね」などと、つまらないケチをつけられたくはないですからね。