以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0345
「生」と「産」の違いについて教えてください。
A
この2つの漢字は、ともに「うむ」「うまれる」と訓読みします。そこで、意味もほぼ同じと考えてかまわないのですが、実際には、微妙な使い分けがあります。
それは、「生」は「うまれる側」、つまり子どもの立場を基準にして使われるのに対して、「産」は「うむ側」、つまり母親の立場を基準にして使われる、という違いです。ただし、この違いは字源に基づくものではなく、慣用的に作り上げられてきたもののようです。
子どものころ、自分の本当の親は別にいるのではないか、という空想にふけったことはありませんか?メロドラマのテーマとしてよく取り上げられる「出生の秘密」というやつです。以上に述べた「生」と「産」の違いから考えれば、これを親の立場から考えると「出産の秘密」になるわけですが、こんなことばは、また違った意味で保健の授業のテーマとはなり得ても、メロドラマとしては聞いたことはありません。
よく考えてみると、「出生の秘密」は、あくまで子どもにとって「秘密」なのであって、親からしてみると秘密ではなく事実なのです。ここでも、「生」は子どもの立場に立って使われる漢字だ、ということがわかると思います。
ただ、もし、人工授精かなにかで、母親も知らないうちに精子や卵子がすり替えられていた、なんてことになったとしたら、これは母親にとっても「出産の秘密」となり得ます。そのうち、「出産の秘密」を探るために母親が奮闘する、なんてドラマが作られるのかもしれませんね。