以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0136
英語のことわざに、Keep a green bough in your heart, and the singing bird will come. というものがありますが、出典は「古い中国のことわざ」だそうです。漢文ではどういう文句なのでしょうか?
A
ヨーロッパで「中国のことわざ」とされているものを眺めてみると、私たちが知っているものとはだいぶ違うものがたくさんあります。特に起源の古いものは、伝わっていくうちにその姿を変えるでしょうし、ヨーロッパ風に翻案されていくこともあるのでしょう。
ご質問のことわざは、直訳すれば「心の中に緑の枝(bough)を茂らせれば、やがて鳥たちがやってきて歌い始めるでしょう」とでもなるでしょうか。しかし、このことわざも、ふつうにみかける中国の名言辞典などを調べても、ぴったりくるものは見あたりません。しかし、インターネットで英語のページを調べてみると、1つだけ、出典はLao-tzuだ、としているものがありました。これはおそらく『老子』でしょう。
これを手がかりにいろいろと調べてみたのですが、『老子』には似たような文句はないようです。その代わり、老子学派(道家)の影響が強いとされる『淮南子』(えなんじ。紀元前2世紀ごろ)という書物の中に、「樹木盛んなれば則(すなわ)ち飛鳥(ひちょう)之(これ)に帰す」という文句を見つけました。これが、かなり近いのではないでしょうか。
原典では、まず「泉の水が深ければ魚たちはそこに集まる」とあって、そのあとにこの「木が茂れば鳥たちはそこに集まる」が続きます。そしてさらに、「草が茂れば動物たちはそこに集まる」と続いたあと、「君主が賢ければ豪傑たちはそこに集まる」となって、いかにも中国らしく、政治家としての心得を説いて終わります。singing birdが豪傑たちになってしまうのは、ちょっと幻滅ですね。
もしこの文句がKeep a green bough~のもとになったのだとすると、ヨーロッパと中国の風土の違いが感じ取れるような気がするのですが、いかがでしょうか。