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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0388
「鍛冶(かじ)」を「鍛治」と書くことがあるみたいですが、間違いじゃないんですか?

A

「冶」と「治」、「にすい」と「さんずい」の違いですね。もちろん正しくは「にすい」の方ですが、ちょっと見には見分けがつきにくいですから、間違えてしまうことも大いにありえるでしょう。
「鍛」は「鍛錬」の「鍛」で、音読みはタン、「きたえる」という意味の漢字です。「冶」の方の音読みはヤで、「とかす」という意味があります。そこで、「鍛冶」という熟語は、本来はタンヤと音読みすべきものではないかと思います。金属をたたいて鍛えたり、溶かしたりして加工することを「鍛冶(タンヤ)」と表現するわけです。
一方、「かじ」ということばは、金属を打つところから「かなうち」→「かぬち」→「かじ」と変化して生まれたようです。その結果、「鍛冶(タンヤ)」と「かじ」とは同じことを表すことばとなり、「鍛冶」と書いて「かじ」と読む習慣が生まれたのでしょう。いわゆる熟字訓の1つです。
「鍛冶」と書いて「かじ」と読むようになると、「鍛」=「か」、「冶」=「じ」というふうに解釈したくなるのが人情というもの。そうして、「冶」=「じ」なのだと思いこむと、「冶」という字が「治」に見えてくるのも、これまた人情というものでありましょう。こうして、本来は「鍛冶」と「にすい」で書くべきところを、「さんずい」の方を使って「鍛治」と書いてしまうケースが生じることになったわけです。
おもしろいのは、インターネット上を眺めていると、「にすい」の「冶」を使った「冶金(ヤキン)」「冶工(ヤコウ)」といった熟語まで、「治金」「治工」と書かれているケースに出会うことです。これらの熟語では、別に「冶」を「じ」と読むわけではありませんから、「さんずい」の「治」と間違えるのは、解せないところです。
しかし、この間違いにも同情すべき点はあります。ためしに、ワープロで「かじ」と入力して変換してみてください。「にすい」の「鍛冶」の他に、「さんずい」の「鍛治」も出てくるはずです(MSIME2003、ATOK17で確認)。本来は間違いであるはずの「さんずい」の方が、どうして出てくるのでしょうか?それはおそらく、「さんずい」の「鍛治」さんという名字の方がいらっしゃるからではないかと思われます。
そこで、「冶金」や「冶工」を入力しようとするときに、そのままでは変換できないと思って、先に「かじ」と入れて変換した結果、「さんずい」の「鍛治」が出ているのに気づかず、そのまま「治」を使ってしまう、という現象が起きているのではないでしょうか。
まったく、漢字というものは、まことに奥が深いものだと、ため息をついてしまいますね。

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