以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0336
「龍」は「竜」の旧字体だそうですが、元々は「竜」の方が正しいのだという話を聞いたことがあります。本当ですか?
A
「竜」と「龍」というのは、こだわりを持つ人が多い漢字で、「芥川竜之介」などと書こうものなら、「そんなんじゃ芥川じゃない!」と怒り出す人がいるくらいです。しかしこの2つの漢字、いわゆる異体字の関係にあって、「竜」が新字体、「龍」が旧字体であること、ご質問をくださった方がおっしゃるとおりです。
旧字体というからには、当然ながら「龍」の方が古いものと思われます。しかし、最も古い時代の漢字の形を伝えている甲骨文字では、この字は図の左側のような形をしています。さらに、甲骨文字の次に古いとされる金文(きんぶん)では、右側のような形になります。これらの形を見ている限り、どちらかと言えば「竜」の方が本来の形に近いものと思われます。
しかしよく見てみると、甲骨文字では、右側に背びれ(?)のようなものが突き出ていることがわかります「龍」という漢字は、この背びれの部分を強調して書いたものだと言われています。つまり、「竜」は甲骨文字の直系の子孫なのに対して、「龍」はかなり誇張された子孫だ、というわけです。なんだか、紅白歌合戦の某歌手の衣装を思わせるほどの誇張のされ方ですよね。
このように考えると、「竜」と「龍」とは、どちらかが親でどちらかが子という関係ではなく、兄弟の関係だということになります。にもかかわらず、「竜」が新字体で「龍」が旧字体だというのは、歴史的にはずっと「龍」の方が正字だとされてきたからに他なりません。純朴な長男よりも、派手好きな次男の方が世間の受けはよかった、というわけです。
それが第二次世界大戦後の国語改革によって、その書きやすさから、「竜」の方が正字であるとされることになりました。純朴な長男の苦労が、ついに認められるときがやってきたのです。私は実は次男なのですが、この「帰ってきた長男」には、惜しみない拍手を送りたいと思います。