以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0181
「蟲」という漢字は「むし」と読むようですが、「虫」とは何か意味が違うのですか?
A
「虫」の部首の字には、気持ち悪い意味の漢字が多くていやになるのですが、この「蟲」という字も、小さなムシがたくさん集まっている様子を表した会意文字で、あんまり想像したくない風景です。
しかし、現在、私たちが「虫」という漢字を見て思い浮かべるのは、ふつう、そうした小さなムシのことではないでしょうか。実は、もともとはそういった小さなムシのことを表す漢字は「蟲」の方で、「虫」はまた別の意味を持っていたのです。
話はややこしいのですが、「虫」は甲骨文字では図のように書かれており、マムシの象形文字だとされています。つまりこの「虫」の字は、マムシに代表されるような、ヘビのことを表していたようなのです。発音もチュウではなく、キという音だったとされています。
ところが、かなり早い段階、紀元前の昔から、本来ヘビを表す「虫」の字を、ムシの意味で用いる例が出てきます。ムシを表すならば元来、「蟲」を用いなくてはならないわけですが、やっぱり、「虫」を三つ書くのはめんどくさかったのでしょう。そして現代の日本では、当用漢字が制定された際、ムシのことを表すときには、「蟲」の字の代わりに「虫」の字を用いることが正式に定められるに至りました。ムシの世界は「虫」に席巻されている、といえましょう。
このように、「虫」と「蟲」の関係は、少々複雑ですので、注意が必要です。