以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0357
小説などで、歌っている部分の前に「へ」のような記号が付いていることがありますが、これは何ですか?
A
図のような記号のことですよね。
これは、「いおり点」と言います。「いおり」を漢字で書くと「庵」で、要するに小屋のことです。昔は、屋根のような形のことを「いおり型」と言うことがあったらしく、この記号も屋根のような形をしているところから、「いおり点」と呼ばれるようになったそうです。
三省堂『大辞林』によれば、「文中に和歌・俳句、謡物などを記すときや、箇条書きの文書、連署の姓名などに付して確認済みの印とする」とのことです。現在、よく見かけるように歌っている部分の前に付けるのは、このうちの「謡物」(謡曲)を記すとき、に該当するのでしょう。
ちなみに、この説明の後半に出てくる「確認済みの印」の場合は、現在主に用いられているのは図のような「チェックマーク」です。これはおそらく、ヨーロッパから入ってきたものでしょうが、奇しくも「いおり点」を上下逆さまにしたような形。こんなところにも西洋と日本の違いが現れているのでしょうか、ちょっとおもしろい現象です。
このQ&Aコーナーではこれまで、「々(Q0009)」や「ヶ(Q0104)」「〆(Q0351)」を扱ってきましたが、考えてみると、日本語の文章の中には、こうした記号じみたものが数多く含まれているものですね。