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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0182
1字めを音読み、2字めを訓読みする読み方を「重箱読み」、その逆を「湯桶(ゆとう)読み」というようになったのは、いつごろからなのですか?

A

「重箱読み」「湯桶読み」ということばそのものの歴史については、明治書院の『漢字講座3漢字と日本語』の中に、新野直哉先生による詳しい考証があります。それに従ってご説明すると、次のようになります。
音読みと訓読みが混じった読み方を表すことばとして最初に表れるのは、室町時代、15世紀ごろの「湯桶文章」ということばです。やがて江戸時代に入ると、「湯桶文章」に代わって「湯桶言葉」「湯桶文字」といったことばが表れてきます。私たちにもなじみの深い「湯桶読み」ということばが登場してくるのは、18世紀に入ってからのことになります。
ところが、これらのことばには、私たちが現在使っている「湯桶読み」とは違う点がありました。それは、「音読み+訓読み」であろうと、「訓読み+音読み」であろうと、順番には関係なしに全て「湯桶文章」「湯桶言葉」などと呼ばれた、ということです。
一方の「重箱読み」ということばが登場するのは、19世紀に入ってからです。そして驚いたことに、こちらも、順序は関係なしに、音読みと訓読みが混じった読み方全てを表していたらしいのです。つまり、この段階では、「重箱読み」と「湯桶読み」は対義語の関係ではなく、むしろ同義語の関係にあった、ということになります。
この状態は、昭和に入るまで続きます。現在私たちが使っているように、「音読み+訓読み」の順序のものを「重箱読み」、「訓読み+音読み」の順序のものを「湯桶読み」と呼ぶのが定着するのは、昭和も10年ごろ以降のことだそうです。
さて、以上からすると、もともと「湯桶読み」と「重箱読み」とは別々に発生したことばだということになります。おそらく、学術用語としてはいずれはどちらかに統一されてしかるべきだったのでしょうが、それぞれのことばが、たまたま「湯桶」は「訓読み+音読み」、「重箱」は「音読み+訓読み」であったがために、うまい具合に住み分けができたのではないかと思われます。偶然としてはちょっとできすぎた偶然、といえるかもしれません。

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