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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0230
常用漢字なのにあまり使われない漢字の話がQ0224でありましたが、「脹」という字は、どうして常用漢字に入っているのでしょうか?

A

おっしゃるとおり、「脹」という字は、「膨脹」以外にほとんど使い道がなさそうですね。しかも、Q0224で取り上げた「匁」「侯」「爵」のような時代性はなさそうです。いったい、どういう事情で常用漢字に入ったのでしょうか?
「脹」は、「匁」「侯」「爵」と同じく、当用漢字にもともと含まれていて、常用漢字に衣更えする際にあやうく抹殺されそうになった漢字です。とすると、「脹」が入っていることの責任は、当用漢字に求める方が筋が通っていそうです。ところが調べてみると、当用漢字の元になった戦前のいくつかの漢字表にも、この字が入っているものがあるのです。さかのぼると、1932(昭和7)年に国語審議会が答申した「標準漢字表」が、この漢字を含んだ最初の表のようです。1942(昭和17)年に文部省が作成した「標準漢字表」の段階でも、「脹」は含まれています。後者の収録字数は、2,669。これをもとにして当用漢字が定められる際、「脹」はなんとか生き残った、というわけです。
知りたいのは、その生き残りの理由なわけですが、残念ながら詳しいことはわかりません。ただし、国語辞典で調べてみると、「脹れる」を「ふくれる」と読む例があります。「腹脹れ」で「はらぶくれ」とか、「脹よか」で「ふくよか」なんていうのもあります。しかし、当用漢字・常用漢字のいずれの段階においても、この漢字には「ふくれる」「ふくよか」という訓読みは認められていません。「ふくれる」を漢字で書こうとすると、「膨れる」になってしまうのです。
ここから推測すると、昔は「脹れる」「脹よか」などという形で、この漢字は以外に多く使われていたのではないでしょうか。現在の私たちがそういった使い方をしないのは、逆に当用漢字によってこれらの読み方が排除されてしまったからなのではないでしょうか。「脹」という漢字は、なんとか当用漢字・常用漢字に入れてもらえはしたものの、「ふくらむ」「ふくよか」という読みを奪われてしまったため、活躍の場がほとんどなくなってしまったのだ、というわけです。
こういうふうに想像をめぐらすと、私たちが日ごろ当然だと思っている漢字の使い方が、実は当用漢字や常用漢字という政策によって作り上げられてきたのだ、ということが、強く実感されてこないでしょうか。

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