以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0224
常用漢字のうち、「匁」「侯」「爵」「璽」などは一般生活ではあまり使われていないように思うのですが、どうしてこれらが常用漢字に入っているのですか?
A
常用漢字とは、当用漢字を改定して生まれたものですが、その当用漢字も、戦前に作られたいくつかの漢字表を元にして作成されたものです。つまり、常用漢字の祖先をたどっていくと、大正や昭和初期にさかのぼることができるのです。
その祖先たちは祖先たちなりに、当時必要とされていた漢字を定めたわけです。そこで、私たちの生活ではあまり使われていないように思えても、以前はよく使われていた漢字が、常用漢字の中に紛れ込んでいても、不思議ではありません。
ご指摘の漢字もそういったものの一部です。「匁」は「もんめ」と読んで、昔の重さの単位を表していますし、「侯」「爵」はもちろん続けて「侯爵」として使われ、昔の貴族の位の一つを表しています。「璽」は、「玉璽(ぎょくじ)」という形で使われることが多く、天皇の持つ印鑑のことを指していますから、これは現在でも使われていますが、一般庶民の生活に縁のあるものではありません。
当用漢字が制定された1946(昭和21)年当時は、これらの漢字はまだよく使われていたのでしょう。しかし、常用漢字が制定されていく過程で、これらの漢字は表から削除される危機に瀕します。1977(昭和52)年に発表された「新漢字表試案」の段階では、当用漢字から33字が削減されることになっていましたが、「匁」「侯」「爵」の3字はみな、その中に入っていたのです。
2年後の1979(昭和54)年に発表された「常用漢字表案」の段階になると、当用漢字から削除される漢字の数は19字に減ります。ところが、「匁」「侯」「爵」の3人組は、この精選された19人のメンバーに選ばれていて、彼らの運命はまさに風前の灯だったのでした。
しかし、当用漢字からいくつかの漢字を削除することについては、さまざまな抵抗がありました。すったもんだの挙げ句、最終的に1981(昭和56)年に完成した『常用漢字表』では、当用漢字1850字の全てが、晴れて「再選」を果たしたのです。
まったく、危ないところを助かったものです。これらの漢字たちを常用漢字に入れておくことの是非はともかくとして、私は、こういった漢字たちの運命を思うと、我が身を省みて、同情の涙を禁じ得ないのでした。