当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0223
「鳥」が部首になるときは、「鴨」「鴫」「鷹」「鳶」のように、ほとんど右側(旁の位置)か下側(脚の位置)に来ます。どうして左側(偏の位置)に来ないのでしょうか?

A

むむむ……。難しいけれど、興味深いご質問ですよね。
白状すると、このご質問にきちんとお答えできるだけの知識は、私にはありません。でも、おもしろいですから、ちょっと考察をめぐらしてみましょう。
まず最初に、事実を確認しておきましょう。小社の学習用漢和辞典『新漢語林』の鳥部には、合計203字が収録されていますが、その中で、「鳥」が偏(へん)の位置に来ているのはわずかに11字、5.4%です。現代生活で目にする漢字としては、「鳥」が偏の位置に来るものは、極めてすくないといえるでしょう。
この理由としてまず頭に浮かぶのは、「鳥」が左側に置かれると、字形のデザイン上、バランスが悪いのではないか、ということです。そこで、偏の位置に置かれることが少ない部首がほかにもないか、探してみましょう。すると、「攵(のぶん)」「殳(るまた)」「戈(かのほこ)」「頁(おおがい)」などが見つかります。
これらに共通するのは、最終画が、左上から右下へ向かって書かれる、ということです。しかし、「鳥」はこれには該当しません。しかも、「鳥」と似たような形の「馬」は、圧倒的に偏の位置に置かれることが多いわけですから、どうも、バランス感覚の問題ではないようです。
ここで鋭い読者のみなさんは、漢字の悠久の歴史に思いを馳せて、大昔の古い字形のころには、「鳥」を左側に置くのはバランスが悪かったのではないか、とおっしゃることでしょう。その点を確認するために、1世紀ごろに作られた『説文解字(せつもんかいじ)』という字書を調べてみましょう。鳥部に所属する122字のうち、「鳥」が偏の位置に来ているのは30字、24.6%もあります。『説文解字』は篆文(てんぶん)という古い字形で書かれていますから、篆文の時代には、「鳥」が偏の位置に来るとバランスが悪い、という感覚はあまりなかったのではないか、と推測できます。
以上の考察から言えることは、「鳥」が偏の位置にあまり置かれなくなったのは、おそらく、私たちが現在使っている楷書(かいしょ)の時代になってからであること、そしてその理由は、漢字の普遍的なデザイン上の問題ではない、ということです。そこから先は、申し訳ないのですが、私の手には負えません。読者のみなさんで、いろいろと考えてみてください。
何か思いついた方は、ぜひお知らせください。新説・珍説、大歓迎です。

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