以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0003
漢字はいったいいくつあるのですか?
A
以前は、「『大漢和辞典』には、この世のありとあらゆる漢字が収められていて、その数は約5万である」というのが、漢字の世界では、一般常識とされていました。ところが残念なことに、現在ではいかに小社の漢和辞典編集部といえども、「漢字の総数は約5万」とは言えなくなってきています。
その理由の1つは、『大漢和辞典』をしのぐ規模の漢字の辞典が、中国で相次いで編纂されたことです。中でも1994年に出版された『中華字海』という辞典は、約8万5000という収録漢字数を誇り、写真のように、表紙をめくるとまず「当今世界収漢字最多的字典」という赤い文字が目に飛び込んでくる、というシロモノです。まったく、どういうデザインセンスなんでしょうね……。
また日本でも、コンピュータの世界で「多漢字」を誇るソフトが現れてきています。たとえば「今昔文字鏡」では17万字の漢字が使用可能ですし、「超漢字4」に至っては、その数18万と豪語しています。
では「漢字の総数は約18万」と言い直せばよいか、というと、問題はそんなに簡単ではないのです。
漢字の中には、「島」に対する「嶋」のように、意味も音読みも同じなのに字体だけが違う異体字と呼ばれるものがあります。現在のように活字による印刷物が普及する以前には、この異体字がたいへん多く用いられていました。それらの中には、わたしたちが通常目にする漢字とは微妙に違うだけのものも数多く含まれています。お近くの神社などに古い石碑があれば、そこに刻まれた漢字をじっくり眺めてみてください。きっと、異体字の1つや2つは見つかるはずです。
以前はこういった異体字の多くは、正式の漢字としては認められていませんでした。しかし、最近では、異体字研究にもスポットがあたるようになり、正式の漢字として扱われることが多くなってきています。
というわけで、こういった異体字も1字としてカウントしていくとなると、少なくとも中国・韓国・日本のありとあらゆる漢字文献を精査せねばならず、現実的には不可能といえます。そこで、漢字の総数というのは、まさに天文学的数字、予測不能とお答えするしかありません。