当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0359
名前でよく「哉」という漢字が使われていますが、漢和辞典では「感嘆や反語の語気をあらわす助字」などとしか出ていません。なにか他にいい意味でもあるのですか?

A

そうですよね。今をときめく木村拓哉さんのお名前に使われていますから、「や」と読むことぐらいはだれにでもわかる。かといって、どんな意味なのかと聞かれると、困ってしまいます。
漢字は本来、中国語を書き表すために作られた文字です。古来、中国の人々は、全てのことばを漢字で書き表してきました。その「全てのことば」の中には、ニュアンスを伝えるためのことばも含まれているのです。
わかりやすくするために、話を日本語に置き換えてみましょう。
「大きくなったら漢和辞典編集者になりたい」
「大きくなったら漢和辞典編集者になりたいな」
こんな奇特な子どもがいたら、お医者さんに診てもらった方がいいと思いますが、それはともかくこの2つの文の違いは、文末の「な」だけです。では、この「な」にどんな意味があるのかと聞かれると、それはニュアンスの違いとしか言いようがなくて、すっきりくっきりと答えられる人は、少ないのではないでしょうか。
中国語にも、この「な」に相当するような、ニュアンスを伝えることばがあります。そして、当然ながらそれも漢字で書き表されます。「哉」はまさにそのような漢字なのです。「感嘆や反語の語気」というニュアンスはあっても、意味と言えるほどはっきりした意味はないのです。
それでもなお、この漢字が名前に好んで用いられるのは、それはカッコイイからでしょう。といっても、キムタクがカッコイイからではありません。たとえば、文豪・志賀直哉の「直哉」を漢文風に読み下すと、「直なるかな」となります。現代語で言えば、「なんて真っ直ぐなんだろう!」という意味です。「拓」は「開く」という意味がありますから、「拓哉」の場合は、「なんて広々としているんだろう!」という感じでしょうか。
名前の時点ですでに驚きが含まれている、というのは、なかなかできない芸当です。だから、カッコイイんですね。
ちなみに私の名前は、上の名前は相当変わっているのに、下の名前はごくごく平凡という、アンバランスな(ある意味、バランスのとれた)名前。以上のお話がひがみに聞こえなければいいのですが……。

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