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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0520
「惣菜」は「総菜」に書き換えるという決まりがあるようですが、現実には「惣菜」の方を多く見かけるのはどうしてでしょうか?

A

たしかにそうですよね。新聞などではやはり「総菜」が多いと思いますが、スーパーの食品売り場なんかに出かけても、「お惣菜」と書いてあることの方が多いように感じます。
「惣」は、1946(昭和21)年に当用漢字が制定された際に、その中に含まれませんでした。その後、1956(昭和31)年になって、国語審議会は「同音の漢字による書きかえ」という資料を発表しています。これは、当用漢字に含まれない漢字を、音読みが同じ別の漢字に書きかえる実例を示したリストで、「惣」を「総」に書きかえるというのも、この中に挙げられています。
ではこのリストは、現実にはどのような影響を及ぼしたのでしょうか。
それを判定するのはなかなか簡単ではないのですが、ためしに国立国会図書館のHPで、「惣菜」「総菜」「そうざい」をタイトルに含む書籍を検索してみました。1926(大正15/昭和元)年から1945(昭和20)年までに出版された書籍では、「惣菜」が10件見つかっただけで、「総菜」「そうざい」はありません。当用漢字制定前は「惣菜」の方が圧倒的に主流であったことは、間違いないようです。
q520_zuhanその後、10年刻みの変遷は、表の通りです。これを見る限り、当用漢字が制定され、「同音の漢字による書きかえ」が発表された後、「惣菜」は主流ではなくなるものの、かといって「総菜」が幅をきかせるようになったわけではなさそうです。代わって登場してきたのは「そうざい」であって、しかしその覇権もつかのま、ここ20年ほどは、「惣菜」が復活しつつあるようです。
なぜこのような現象が起きているのか?それは答えるのがとても難しい問いかけです。
「惣」という漢字は、常用漢字にも入りませんでしたから、今でも学校で教わる漢字ではありません。国語審議会が文書を出し、新聞などがそれに従い、学校教育からも外されても、それでも、そのことと私たちの漢字生活とは、必ずしもリンクしない。――「惣菜」はそのことをよく示しているとだけは、言えるでしょう。

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