以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0496
「名字」と「苗字」は、どちらが正しいのですか?
A
「字」という漢字は、漢字・文字の「字」という意味で使われますが、古くは「あざ」「あざな」とも読まれて、一種の名前の意味として使われていました。そこで、「名字」とは、2文字とも名前に関する漢字から成り立つ熟語だと理解できますが、「苗字」の「苗」は、意味は「なえ」。名前に関する意味はありません。
実際のところ、「名字」と「苗字」とでは、「名字」の方が本来の形であったようです。昔の日本人の名前は、現在よりはずっと複雑なのですが、「名字」とは本来、主にその人が住んでいる土地に関連して名付けられた名前を指していたとされています。
それが江戸時代になると、よく知られているように、一般庶民は、公の場所で名字を名乗ることを禁じられてしまいます。名字は、支配階級の特権となったのです。そしてちょうどこのころから、「苗字」と書かれる例が増えてくるようです。
「苗」には名前に関係する意味はありませんが、「子孫」という意味があります。そこで「苗字」とは、共通の祖先から分かれた子孫たちが共有している名前、という意味合いがあると考えられます。名字を名乗ることが支配階級の特権となっていった時代に、同族意識の強い「苗字」という書き方が広まっていったというのは、なんとも意味深いようにも思えますね。