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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0475
漢和辞典を調べていたら、「零」に「こぼれる」という意味が載っていたのですが、なぜゼロにこんな意味があるのでしょうか?

A

ゼロといえば、現代を生きる私たちにとっては、特にむずかしいことばでもなんでもありません。しかし、「何もない」ということを、1とか2と同様に数の一種として考えることは、実はそんなに昔からあった考え方ではないのです。
ゼロという概念を初めて考え出したのはインド人で、それはだいたい7世紀ごろのことだったと言われています。一方、漢字の「零」は紀元前の昔から使われていますから、ゼロが誕生するよりはるかに前から「零」は存在していたことになります。
「零」の一番最初の意味は、「雨だれ」だったとされています。それが、屋根から雨だれが「こぼれる」「したたる」という意味に発展し、さらには「こぼれたもの」「あまり」という意味でも使われるようになりました。
この「あまり」という意味が数に対して用いられた場合、「端数」を表すようになります。そして、それが「ごく小さな数」となり、やがては「何もない数」、ゼロを表すようになっていったようです。
中国科学の歴史を研究したイギリスの学者ニーダムによれば、「零」がゼロの意味で使われ出すのは、明王朝の時代(14~17世紀)のことのようです。ただし、それ以前から記号「○」をゼロの意味で用いることはあったようで、この「〇」の読み方と「零」の発音が同じだったことから、「零」が「〇」の代わりに用いられるようになったのではないか、というのがニーダムの説明です。
ただ、ニーダムはその大著『中国の科学と文明』(邦訳は思索社)の中で、続けて次のような興味深い発言もしています。

古い文字(「零」のこと――引用者注)の起用は、それがずっと‘余り’を意味していたという理由のみならず、〇記号が球状の雨滴のような形であったという理由によっても行われたものであろう。

ちょっと「深読み」すぎる気もしますが、詩のような雰囲気もあって、なかなかおもしろい説ですよね。

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