当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0441
「たんぼ」は漢字で「田圃」と書くようですが、これは「たん・ぼ」と読んでいるのですか? それとも「た・んぼ」と読んでいるのですか?

A

国語辞典で「たんぼ」を調べると、必ずといっていいほど、「田圃は当て字」と書いてあります。というのも、「たんぼ」はもともと、「たのも」「たおも」ということばから変化して生まれたものと考えられていて、この「たのも」「たおも」を漢字を用いて書くとすれば、「田の面」「田面」となるからです。
つまり、本来は「田の面」「田面」と書かれるべきであったことばが、発音が変化するにつれて、「面」という漢字との関連が付きにくくなり、その代わりにホという音読みを持つ「圃」が採用された、というわけです。「たんぼ」と発音する日本語が先にあって、それに「田圃」という漢字を当てたということになります。
ところが、漢和辞典で「田圃」という熟語を引いてみると、古代中国語に用例があることがわかります。たとえば、『韓非子(かんぴし)』という書物には「田圃を棄てて文学に随う者」などと出てきます。これは、農業をやめて学問をする人、という意味ですから、ここでの「田圃」は、ふつうデンポと音読みするものの、「たんぼ」とかなり近い意味で用いられていると考えてよいでしょう。
そうすると、日本人が当て字として作った「田圃(たんぼ)」は、奇しくも古代中国語の「田圃(デンポ)」とほぼ一致した、ということになります。それもそのはず、「圃」とは「はたけ」を意味する漢字なのですから。この当て字を考えた日本人は、単に音読みが似ているだけでなく、意味も通じることをわかった上で、この漢字を採用したのです。このあたり、日本の漢字文化の奥深さがよく表れていて、おもしろいと思いませんか?
というわけで、「田圃(たんぼ)」は当て字なわけですから、「たん・ぼ」なのか「た・んぼ」なのかは、あまり気にすることはありません。2文字でまとめて「たんぼ」と読む、と思っておけばOKです。

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