以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0415
「くさかんむり」に「楽」と書いて、どうして「薬」(くすり)になるのですか?
A
「薬」とはふつう、病院で処方してもらうもの。待合室で同病相憐れむのが好きな「病院マニア」ならともかく、大多数の人にとっては、薬をもらうのはけっして楽しい経験ではありません。なのになぜ、「くさかんむり」に「楽」なのでしょうか?
「薬」に「くさかんむり」が使われていることについては、そんなに驚くことではありません。漢字はもともと中国で生まれたもの、中国の薬といえば漢方薬、漢方薬といえば、草の根っこだったり木の皮だったり……。大昔から、人間が植物を薬として利用してきた歴史を思えば、薬を表す漢字に「くさかんむり」が使われているのは、むしろ当然のことといえるでしょう。
問題は「楽」の方です。そしてこちらは、残念ながら例によって諸説分かれているのが現状です。ここでは、その中で一番有力らしいものをご紹介しておきましょう。それは、この「楽」は「療」のことで、「いやす」という意味だ、というものです。「療」は「治療」の「療」ですから、「いやす」という意味があるのは、もっともです。
でも、そう言われたって、なぜ「楽」が「療」につながるのかは、私たち素人にはサッパリわかりませんよね。その疑問に答えてくれそうなのが、『大漢和辞典』に載っている、図のような「やまいだれ」に「楽」(樂)と書く漢字。この漢字の意味は「いやす」、音読みはリョウで、「療」と全く同じです。とすると、「薬」とは、「療」の「やまいだれ」が「くさかんむり」に変わっただけどもいえるのです。
もっとも、これも有力な一説にすぎません。たいていの漢和辞典には、字源の解説も載っています。納得がいかない人は、いくつかの漢和辞典で「薬」の字源を比べ読みしてみてくださいな。