以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0382
「壁紙をはる」の「はる」は、「張る」ですか、「貼る」ですか?
A
最初に無粋なお話をしておきますと、現在の『常用漢字表』には「貼」は掲載されていません。そこで、この表の範囲内で日本語を書き表そうとするなら、ご質問に対するお答えは、自動的に「張る」となります。
とはいえ、現実に「貼」という漢字は存在して、パソコンで「はる」と入力すると普通に「貼る」と変換されるわけです。そこで、ここは『常用漢字表』にはちょっとご遠慮願った上で、ご質問について考えてみることにいたしましょう。
「貼」を漢和辞典で調べると、本来は「質に入れる」という意味だ、というようなことが書いてあります。「財」「貯」「賃」など、「貝」の付く漢字にはお金に関係する意味を持つものが多いですから、「貼」にそんな意味があっても、不思議ではありません。でも、その意味がどうして「貼る」に変化したのかについては、よくわからないのが実状のようです。
ただ、「貼」には「占」という漢字も含まれています。「占」には「うらない」という意味もありますが、「占領」のように、ある場所を「占める」という意味があります。そこで、「貼」にもどこか平面的な、ぺったりとしたイメージがあるようです。
それに対して「張」の方は、「弓」へんが付いていることからわかるように、本来は弓の絃を「張る」という意味です。従って、同じ「はる」でも、「貼る」に比べれば直線的なイメージがあると思われます。
そこで、紙などの平面的なものを「はる」場合には、「貼る」という漢字が好まれる傾向があるようです。たしかに、凝った肩にサロンパスを「張る」となると、なんとなく緊張がほぐれそうにはありませんね。やはり「貼る」でないと、現代社会のストレスは解消できないように思われます。