以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0334
「脳」や「悩」の右側の部分は、「ツ」と「凶」から成り立っていますが、どのような意味があるのですか?
A
たしかに、ちょっと変わった形をしていますよね。でも、カタカナの「ツ」とも関係がなければ、おみくじの「凶」とも全く関係はありません。
漢字の形について考えるときに注意しなくてはならないのは、現在、私たちがふつうに目にしている形は、その漢字が生まれたときそのままの姿ではない、ということです。「脳」や「悩」について漢和辞典で調べてみると、旧字体では「腦」「惱」という形をしていたことがわかるでしょう。この時点で、カタカナの「ツ」やおみくじの「凶」とはおさばらしてしまうのです。
さらに調べていくと、問題の部分は、篆文(てんぶん)では図のような形をしていたことがわかります。ちょっと見たところ、温泉マークのような形ですが、上半分の三本の波線は湯気ではなくて、髪の毛を表しているのだと言われています。私はこの字を見るたびに、オバケのQ太郎を思い出してしまいます。
問題は、下半分です。これは一般に、「ひよめき」を表していると言われています。ひよめきとは、赤ちゃんの頭のてっぺんあたりにある、ぺこぺことしている部分のことです。頭蓋骨は何枚かの骨が組み合わさってできていますが、生まれたばかりの段階では、それらがまだお互いにしっかりとくっついてはいないので、そのすきまに当たる部分の頭皮が、ぺこぺこと動くのです。図をよく見てみると、単純に「○」の中に「×」を書いたのではなく、上の部分がとぎれています。これが、ひよめきだと言うのです。
そこで、「脳」や「悩」の右側の部分は、一般には、脳を含む頭部から毛が生えている形だと考えられています。そしてこれはそのまま、脳みそのことを表しているのだと言われているのです。つまり「脳」とは、脳みそを表す形に、肉体に関係することを示す「月(にくづき)」を組み合わせた漢字、「悩」は同じく心に関係することを表す「りっしんべん」を組み合わせた漢字だということになります。
そう理解した上で、「脳」や「悩」という漢字をあらためて眺めてみると、なんだかなまなましい雰囲気が漂ってきませんか?漢字を作った人々は、意外とリアリストだったような気がしてなりません。