以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0301
「本」とは書籍のことを表しますが、細長いものを数えるときにも「本」を使います。この2つは、どういう関係にあるのですか?
A
漢字の成り立ちからすると、「本」はきわめてわかりやすい指事文字です。「木」の下の方に印を付けて、「根元」という意味を表すのが、この字の本来の意味です。
草や木というものは、地上ではさまざまな形に生い茂っていても、通常、根は1つです。そこで、草や木を数えるときには、根を数えるのが数えやすかったからでしょうか、「本」という字は、草や木を数える単位として用いられるようになりました。
この用法が変化して生まれたのが、現在、私たちが用いている、細長いものを数えるときの「本」の用法です。ただし、多くの辞典では、この用法は日本独自のものとしています。中国では、草や木を離れて広く細長いものを数える単位としての「本」は、ないるようです。
以上とは別に、「本」は「根元」という意味から、「もとの」「本来の」といった意味にも使われるようになっていきます。書籍のことを表すのは、おそらくこの用法が変化して生まれたものだと思われます。印刷技術が未発達の時代、書籍はすべて手で書き写すものでした。そのときの「もと」になる方を「本」と呼んだようなのです。
それが時代とともに変化して、書籍のことを表すようになるのですが、実はこの用法も、現在の中国ではあまり用いられません。英語のbookの意味を表す中国語は、ふつうは「書」であって、「本」ではないのです。
同じ漢字でも、中国と日本とでは、それぞれの意味と歴史があるのです。