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漢字Q&A

漢字Q&A

Q0530
いわゆる旧字体を使った「龍人」(たつと)が名前に認められるのに、同じく旧字体を使った「晴子」(はるこ)が認められないのは、どういうことでしょうか?

A

 結論からいいますと、「竜」の旧字体の「龍」は昭和26(1951)年5月25日内閣告示の「人名用漢字別表」に掲げられ、それがそのまま受け継がれていて、いまでも子どもの名づけに使えますが、「晴」の旧字体の「晴」(「青」のところが「靑」である字)は、同表に掲げられていないため、ダメとされるのです。以下、まぎれないように新字体は青字、旧字体は赤字で示しながら、その事情を説明しましょう。

 「」は昭和21(1946)年11月16日内閣告示の「当用漢字表」中に掲げられています(「」の形ではありません)。それで昭和23(1948)年1月1日施行の改正戸籍法と戸籍法施行規則の段階では、当用漢字表の字が「常用平易な文字」とされて名づけに用いることを許されるものとなりました。そこで「」がその字形のまま認められたのです。むしろ、いま新字体とされる「」は異体字(俗字体)として避けられていたのでしょう。

 しかしながら、昭和24(1949)年4月28日内閣告示の「当用漢字字体表」ではその「」が掲げられたために、晴れて「」は名づけに許容される字となったのです。一方、「」も、もともと、同字体表が告示されるまでは当用漢字として認められていたわけですから、やはりそのまま人名用としての「市民権」を保持しつづけました。

 ところが、昭和56(1981)年10月1日に「常用漢字表」が内閣告示されると同時に法務省令としてだされた「人名用漢字許容字体表」からは「」が消えました。「晴」ははずされたのです。常用漢字表が内閣告示される前の中間答申案(昭和54〔1979〕年3月30日)の段階で、正式に告示された後の人名用漢字をどうするか悩んでいた法務省は、民事行政審議会を発足させて対応策を議論していたのですが、とくに旧字体をどうするかがまとまらなかったといわれます。そして、昭和56年3月23日に国語審議会が常用漢字表を答申したのを受けて、民事行政審議会では昭和56年5月14日の答申で、常用漢字表のなかのカッコ書きの旧字体357字のなかで、もともと当用漢字表にカッコ書きではなく、地にそのまま掲げられていた「旧字体―195字」は、そのまま人名用漢字許容字体として子どもの名づけに認める方針としたのです。そして、常用漢字表でカッコ書きで掲げられないものは、当用漢字表の地に掲げられていた旧字体でも人名用に認められないこととしたのです。

 その方針にそって、常用漢字表が同年10月1日に内閣告示されたのにあわせて戸籍施行規則が改正され、表中でカッコ書きにもされない旧字体の「」は人の名づけに許容されなくなりました。それが現在までつづいているのです。ややこしい歴史があって混乱しそうですね。(なお、当用漢字表に掲げられていたカッコ書きの旧字体については、それらはあくまで参考としてそえられていたもので当用漢字ではないとされ、常用漢字表でカッコ書きでそえられていても、人名用に認められませんでした。)

 このように、子どもの名づけに用いることを許される、あるいは許されない旧字体の「変遷のなぞ」を解こうとすると、「当用漢字表」「当用漢字字体表」「人名用漢字別表」「常用漢字表」「(改訂)常用漢字表」などや、法務省令をつぶさに見てゆくことになります。(舩越國昭)

 

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